ドロミテ横断のシゴトその2  サン・ヴィートのオルガン

コンサートのある教会では当日午後しか練習時間がもらえないということで、一日前のこの日、以前から行ってみたかった近郊のオルガンを見学に行った。場所はサン・ヴィート・ディ・カドーレ(S.Vito di Cadore)。コルティーナ・ダンペッゾ(Cornita d'Ampezzo)から南に車で15分程。山に囲まれた風光明媚な村。早速お目当ての教会へ。
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写真ではあまり出ていないが、水色とベージュでまとめられた落ち着きある内部。高窓から差し込む光の元では、入れ替わり立ち代りやってくる村人が絶えず祈りを捧げていた。
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そして、祭壇の反対側、教会の後部バルコニーの上には、エレガントなイタリア様式の箱に納められた1800年代のオルガンが、私たちを静かに待っていてくれた。
オルガン:G.バッツァーニ&息子、1848制作(Giacomo Bazzani e Figli)
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早速バルコニーに上がってみることに。ちなみに、ヨーロッパの教会のオルガンは、このようにバルコニーにドンと鎮座していることが多いが、そこへ登っていくオルガニストのための階段は狭い。得てして大食い・大酒飲みのオルガニストの私たちは要注意(もちろん上品な方もいらっしゃいます、念のため)。演奏前に食べ過ぎて太っちゃったオルガニスト(そんなことありえないか・・)、演奏前に飲みすぎてすでにフラついちゃってるオルガニスト(これはありえる・・・)にとって、この階段はかなりキビシイのだ。(ほんとかなー?)
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階段の途中にはこのように扉がついていて、誰でも登ってこれないように管理していることも。大切な楽器、芸術品ですから。今回は神父さんに頼んで鍵を開けていただいた。
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無事に(?)バルコニーに上ると、そこには下から見上げるよりはるかに大きなオルガンと(カメラに収め切れません)その演奏台が。これは典型的な18~19世紀のイタリア・オルガンの演奏台。こういうものはこういうところに来なければお目にかかれないので貴重な体験。どういう仕組みになっているのか、どうやって演奏するのか、まずは早速鍵盤とその付近を音を出しながら色々探ってみる。
パイプオルガンは一台一台がすべて一点ものの手作り。「世界規格」「大量生産」なんて基本的にはないのだ。ましてこのような歴史楽器となると、お国柄や地方色がその楽器制作技法や音色に顕著に表れる。その楽器が置かれるところが望むものを、その土地の職人が作り上げていったからで、まさにオルガンって文化だなと感じる。ある意味、民族楽器であるとも言えるのでは?そして、その楽器のための作品がそこから生まれていくのだ。
楽器あっての作品、作品あっての楽器。
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この先、ちょっとオタクな内容になります・・・。
イタリアのオルガンは鍵盤数が少なく、1~2段が普通。このオルガンも一段だけなので、大型オルガンを見慣れた現代の私たちには物足りないように感じるかもしれないが、実はこの種の鍵盤は、高音部と低音部で音色を分けることができる。そのため鍵盤右側に並ぶストップも(=音栓。イタリアのは引っ張るタイプではなく、これを左右に移動させて操作する)、例えば、Principale soprani(プリンシパル高音部)、Principale bassi(プリンシパル低音部)という風に、ひとつの音色に対して二つのストップを持っている。「普通」なら、例えばメロディーと伴奏を違う音色で弾き分けたいときには、右手と左手をそれぞれ、違う音色を仕込んだ鍵盤で演奏するが(=2段の鍵盤が必要)、このタイプの楽器ではそれが一段だけで出来ちゃう、ということ。
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長くなるので、割愛しながら他の「オプション」を説明すると、鍵盤すぐ上にカンパネッラ(Campanella)のストップ。足鍵盤高音部のこの「Mi」の音は鳴りません。これはテルツァ・マーノ(=「3つ目の手」という意。手鍵盤ソプラノ部分を一オクターブ高音同時に鳴らせるようになる)のスイッチとして機能。「Fa」はロッランテ(=高さを認識できないくらい低いパイプが数本一度に鳴る。大太鼓をずっと鳴らしている感じ)。「Fa」の上の棒はグランカッサ(Grancassa)、その右のはティラトゥッティ(Tiratutti。=これを踏み込むと全てのストップが一度に引き出せる)、そして一番右のがロンバルディア式自由コンビネーション(combinazione libera “alla lombarda”=予めストップを仕込んでおいた後でこのノブを踏み込むと、 そのストップがまとめて引き出せる)。

f0161652_981953.jpg譜面台の上に陳列するカンパネッラたち。打楽器のチェレスタをここにはめ込んでいる。鍵盤弾くとチンチンと頭上で鳴ってかわいい。これと同じものが横浜のみなとみらいホールのオルガンにも付けられているので、一度聴かれてみては?

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グランカッサ(Grancassa)の正体。足元のグランカッサのノブを思いっきり踏み込むと(かなり力が必要)、オルガンの中に隠れている太鼓&シンバル&シストラムの打楽器がいっぺんにガシャジャジャーン~!と鳴る。そりゃ賑やか。












なぜこのオルガンの見学に来たかって?それはもちろん、これらの「オプション」で遊んでみたかったから!「ふざけた楽器」なんて言わないでください。これぞイタリア文化なのです(笑)。イタリアはオペラの国。オペラのオーケストラをオルガンにも求めた結果。
オペラチックなイタリア・オルガン作品を持参して、「オプション」を即興で付け足しながら、賑やかで楽しい一時を過ごした。下で静かに祈っている村人には申し訳ないけど、どうやら彼らも慣れている様子。見た目はエレガントな雰囲気のこのオルガンの、素顔を見た気がした。


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by organvita | 2008-05-06 09:52 | 見た弾いたオルガン | Comments(3)
Commented by arpa at 2008-05-06 15:32 x
ちょっとご無沙汰です。お元気そうで何より。
写真がいっぱいで、素敵なブログだねぇ~。私の知ってるイタリアとは、ちょっと違う景色だよ・・・。でも、お野菜とかは、懐かしい感じ。ちょくちょく覗きま~す。
オプションいっぱいのオルガン、面白い!イタリアっぽいね。
ではでは、また近々。
Commented by organvita at 2008-05-06 17:44
arpaさん!コメント&メールどうもありがとう!励みにがんばります!ミラノとは雰囲気ベツモノでしょ?今度こちらへも足のばしてねー!いつかオプション・イタリア・オルガンでご一緒しましょ!
Commented by vivayuki at 2008-05-06 18:36 x
こんにちは!教会の中って下のほうから見上げた事しかなかったけれど、バルコニーからだとこんな感じなんですね~。
オルガン、すごく奥が深いですね。こんな複雑な楽器を演奏できるなんてすごいっ!

PS.今年こそ遊びに行きます!なので、またメールしますね♪
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