トレント・フィラルモニカのオルガン その2

トレントのフィラルモニカで行われている午前コンサートInvito all'ascoltoに、
一年半ぶりにまた出演させていただきました。

それで、前回出演した時のことを書いたブログを読み返してみたんですけどね、
いやあ~、そういえば司会者が本番に遅れてやってきて焦ったり、曲順をいきなり舞台上で変更させられたり、司会者が途中で帰っちゃったり色々あったな~。
でもそんなに大したことないじゃん、ご愛嬌ご愛嬌!と、冷静に読んでいるワタクシ。
つまり、この一年半でイタリアで更に精魂鍛えられてしまったのだという証であります。

では、再度ホールへ。
トレント大聖堂の右側、このピンクの建物がコンサートホールの「フィラルモニカ」。
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このコンサートは朝9時から11時前までの「レクチャーコンサート」。
前回同様、某音楽教授のレクチャーを挟んで進行される。

さらっと鍵盤を触り、開場。300席のホールはすぐに埋まった。
実はこのコンサートシリーズは、トレントにある「市民大学」のカリキュラムに入っており、入り口ではご高齢の紳士淑女たちが出欠票にサインをしたりしていた。
前回はそれに加え小中学生も「音楽鑑賞教室」として参加していて元気一杯の客層だったが、今回は「ご老人」ばかり。(あ、その中に紛れていた若い方、ごめんなさい)
舞台の上から見下ろすと、白髪(または無髪)の方が多く、300人近くが座っていても、
客席の色調が明るい。早朝からそれなりに緊張して相変わらずお腹を下したりしていたのだが、なんだか老人ホームのイベントに出演するかのような、和やかな気分になってくる。ハンカチから白いハトでも飛ばしてみたくなってきた。
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ちなみに「市民大学」とは一般的に、もう学生ではない人に、また学べる環境を市が与える機関のことを言うのだと思うのだが、ドイツでも「Volks(=市民、国民)hochschule(=大学)」と言う。フランス語や英語圏ではどういう表現するんですか?

イタリアでは、この「市民大学」に当たる言葉を、「Universita' della terza eta'」
(直訳すると「第3番目の年齢の人たちの大学」)と言うようだ。
この「第3番目」というところに、どうしても「老人」「隠居」というニュアンスが隠されているような気がして仕方がないのだが、ちなみにそれに対するprima eta'(第一番目の年齢)、seconda eta'(第二番目の年齢)という言葉は存在しないらしい。

ちなみにトレントでは、この「第3番目の年齢の人たちの大学」には、35歳以上の市民なら誰でも申し込めるらしい。ってことは、私も「第3番目の年齢」にしっかり達しているわけで、このコンサートも、聴く人が「老人」なら演奏者も「老人」だったという事実に、大爆笑したのであった。だから私に出演依頼がきたのかな。
演奏後に話しかけてきたご老人が、「いやー若いのに!いやーこんなに若いのに!」と
言って褒めてくださったが、なんだか微妙(笑)。
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相変わらず本番10分遅れでのんびりと到着した教授(司会者)がまず舞台上へ。
私たちのことを紹介しているのだが、「日本人Ai Yoshidaはあの大都会東京で生まれ育ったのだが、今はおらが谷に住んでいる」という件で会場大爆笑。そこへ「はいはいみなさんこんにちは~」みたいなノリで登場のワタクシ。ナイスなオープニングである。

普段ならまだ家でのんびり朝食を食べたり掃除したりボーっとしているような時間なのに、
300人のご老人の前に送り出され、まだ脳の焦点があっていない中、反応の遅い電気
アクションの楽器での一曲目の連弾(更に合わせるのが大変)で苦労し、やっと弾き終わっておじさん(=教授)の解説が始まり、やれやれ、と思いながら二曲目の準備しているところに、いきなり舞台上でおじさんからマイクで指令が。
「ねえねえ、ちょっとバッハのトリオ・ソナタ弾いてよ。5秒でいいから。」
「は?」

普通こういう場合、実は事前にMCはしっかり用意されている。そして舞台上で突然のリクエストを受けて驚いた演技をし、おっとそんな滅相もないそんな大曲、いくら5秒といえども、突然ご披露するなんてとてもとても拙者には・・・みたいな謙虚なしぐさがあり、でもそこをなんとか一肌脱いで頂きたいみたいな更なるお願いをされて、ではでは仕方ありませぬ、失敗してもそこはご愛嬌でお許しくだされみたいなことを言いながら自信無さげに弾き始め、でもこっそり事前特訓していたお陰でカッコよく決まり、会場どよめき大拍手、さすがプロは違うわねみたいな設定がされているのだが(ほんとかいな)、
残念ながらここはイタリア。事前の打ち合わせなんて全くなく、いきなり海の中に放り出されて「泳げ」と言われたのであった。


ここから私の脳裏の葛藤(面倒なので読み飛ばしてくださいね):

「あのイタリア語よくわからないですけど、もしや今トリオソナタを弾けとおっしゃいました?気のせい?そんな急に弾けって言われたっていくら5秒でも無理に決まってるじゃない。舞台上で断れないのを知っていておじさんまたこんな難題を笑顔で投げかけてきてももうその手には乗らないわよ。でもここで弾けませんと言っても弾いて失敗してもどっちにしても私情けないわ。それならそうとだから事前に打ち合わせしてくれれば死に物狂いで練習するか音源用意しておいたのにまったくもう。さあどうする。トイレに逃げるか、失神するか、ああ今地震が起こればいいのに。冷蔵庫が空の日にいきなり客が来て寿司を出せと言われても、出ないものは出ないのよ。だれか助けて。唯一遠い記憶に残っているのはハ短調のトリオか。シミラに♭。三つ♭。確か右手がソで左手がミ♭、ペダルがドだったわね。音はどうする?無難に8+4フィートをそれぞれの鍵盤に作ってみるか。あ、老人にはこれじゃ聞こえないかも。2フィートも足しとくか。ペダルはどうする?この16フィートの音大きかったっけ小さかったっけ。事前にバランス試してないからどんな音が出るかわからん!怖いよー!ああきっとみんな、このアジア人緊張しちゃって弾き始められないと思ってるんだろうな、でも違うのよ、ストップを出さないと音鳴らないのよオルガンは。よしもうしょうがない一か八か発進!確か始めは右手と左手が3度で平行した動きだったわよね。げ、跳躍難しい。あ、ここから3度じゃなくなるんだ間違えた!ああもう戻れない!どんどん現代曲になっていく!だれか助けて!みんななんか白けてない?でも本当はとっても素敵な曲なのよ。こんな不協和音はないのよ。みんなわかって!あ、ここら辺で丁度キリがいいからどうにか終わらせちゃおう。あれ、終われない終われない、ああああ、ハ短調。ハ短調。ドで終われドで終われ。ドの鍵盤にどうにかたどり着け。着地体制準備。ええい着地~!ああどうにかたどり着いた。死ぬかと思った。」



・・・なんていう風に約数秒の間に私の全脳みそがアマゾンのジャングルに迷い込み、出口を探して悶えていた事など、司会者のおじさんは知る由もなく、私の「即興」が終わるのを暖かい笑顔で見守ってくれていたのであった。

その後もプログラムは進み、あの曲この曲を聴いているうちに、ご老人たちの脳裏からはさっきの5秒の「即興」演奏の記憶はすっかり消えさった。
・・・ことを願う(笑)。

またしても、早朝から精魂鍛えられたコンサートでした。
最後に、その早朝に応援に聴きにきてくださった、TさんKさん、どうもありがとうございました(^0^)。


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by organvita | 2010-11-25 20:03 | 見た弾いたオルガン | Comments(22)
Commented by K at 2010-11-27 03:08 x
Kでございます。あのおじさん(ここいらでは有名な教授)が今回も突然リクエストを出した時ソナタって言葉が聞こえましたが、まさか突然楽譜もない状態でバッハのトリオソナタは絶対あり得ないだろうと客席から思っておりました。ですから愛さんが弾き始めた瞬間のわたくしの驚きといったら!ストップの選択もバッチリ、美しい音色が会場に響いていました。(上記の愛さんの説明から高齢者仕様のストップ選択(笑)だったようで、それをうっとり聴いたわたくしの耳はやはり老人モード、ということかしら)。5秒どころか長く弾いてくれましたし、さすがプロでございます。次回は思いきって最初からプログラムに <XX教授の突然リクエストコーナー>というのを設けておいてはいかがでしょうか。お疲れさまでした。でも本当に見事でした。拍手!!
Commented by momoyokokubu at 2010-11-27 05:10 x
いきなり!それは!あんまりだ!そして葛藤があまりにリアルで泣きそうになってしまいました。わかりすぎますその状況。どうしてこんなに日本と違うのでしょうね。

それにしても聴講するのは楽しそうなコンサートですね。
Commented by arpa at 2010-11-27 08:34 x
ああ・・・その状況怖すぎる・・・だけど、愛ちゃんが書くとどうしてこう面白いのでしょうか。涙が出るほど笑いました。
そういえば昔師匠が、ミーントーンのオルガンと一緒にアンサンブルして、オルガニストの即興があった時、リハーサルで無難な演奏をしたから、「あなたともあろう人があんな単純な即興じゃ面白くないわ。もっと不協和音をたくさん入れた即興をしてよ」とリクエストしたところ、本番で遠い調に行って帰ってこられなくなって(ミーントーンだからねぇ・・・)、誰も助けられず、延々とオルガンの即興を見守るはめになった、という話を聞いたことが。
案外、お客さんにはわからないものなのですけどね~。
Commented by さーぶ at 2010-11-28 10:18 x
愛ちゃんの脳内葛藤、爆笑で読みました!必死のご本人には申し訳ないのだけど(爆)・・・でもやりとげちゃうところが愛ちゃんのプロフェッショナルを感じるわ~。噂には聞くけど、イタリアってやっぱり凄いトコなんだな~と愛ちゃんのブログ読んでいつも思います。
Commented by njs2005 at 2010-11-28 23:21
笑える~~~!オルガンのことは、よく解らんですけどその大変さは完璧に理解しました!
Commented by mamadance at 2010-11-29 05:13
うわ~~~!凄い、緊張感と数秒のめまぐるしい頭の中の葛藤が伝わってきました。ハラハラドキドキ!
すごいすごい!皆さん拍手喝采ね!
以前のブログでオルガニストは結構即興的にアレンジ?をして演奏すると教えていただいていたので・・・このハプニングが如実に伝わってきました!
本当にさすが!

突然のリクエストこんなことあるんですね~。
やはり生は違いますね~。だから楽しいですね。
ああ、お疲れ様と肩揉んであげたくなりました♪(笑)
Commented by batanosuke- at 2010-11-29 21:47 x
うわ、スゴイ!そしてそれに応えたプロの腕前はさすが!!
フィートって何?ってな私ですが(横の引っ張るやつ??)その唖然ぶりは想像できたよっ。

でも文章面白すぎ。オルガンだけじゃなくて文才もありますよね!
またまた笑ってお腹イタイよー。
Commented by hiroko at 2010-12-01 00:14 x
だめだ笑いが止まらない。なんとかして。顔がつる。
ゲンダイ曲版トリオソナタ!!!!!

Commented by hiroko at 2010-12-01 00:38 x
ところで市民大学は英米圏ではcommunity collegeでしょうかね。
(気を取り直した)
Commented by emilia2005 at 2010-12-01 03:29
そんな状況に私が直面したら頭真っ白ですが
こんな葛藤ならしてみたいかも?なくらい面白かったです。
素晴らしいオルガンがあるのですね。
一昨日の日曜日、トレントのクリスマスマーケットに行きました。
途中吹雪状態になりどうなることかと思ってモデナに戻ったら
モデナも猛吹雪でビックリでした。
Commented by yuuk at 2010-12-01 04:30 x
ええ〜!!terza eta'って、35歳以上なの〜?!ショック〜!!!おじいちゃまたちの仲間に入って、ずいぶんたってたのね〜、私。
オルガン素人の私には、この年齢設定が衝撃でしたが、いやはや、このびっくりリクエストへの立派な返答演奏(というのかしらん?)、お疲れさまでした〜!
すごいわ〜!いきなり海に放り投げられて、泳ぎ切ったのですね!しかも、美しいフォームで!(笑)
私はいきなりみんなの前で、日本を歌を歌えとか、書道をしろとか言われるぐらいが関の山ですからね。よかったわ、オルガニストじゃなくって^^
でも、こっそり、愛さんのこの即興演奏、聞きたかったです。
Commented by organvita at 2010-12-01 17:04
Kさんへ。
朝早くから来ていただいてありがとうございました!
ほんと、「突然リクエストコーナー」を設けたいですね。で、それ以外の時には口に何かはめてもらってましょう・・・。いや、ほんとは気のいいおじさんなんですけどね。わはは。毎回なにか起こるのでそれはそれで次回も楽しみ・・・?汗
Commented by organvita at 2010-12-01 17:15
momoyoさんへ。
ほんとうに、そうと知っていれば、momoyoさんに来て弾いていただきたかったです!で、あの場で6曲全部弾きとおして戴いたりとかしたらカッコよすぎるくらいカッコよかったと思うのですが!・・・私には5秒が精一杯でした・・・汗。
Commented by organvita at 2010-12-01 17:21
arpaちゃんへ。
がははは!ミーントーン即興怖い~!そう、案外お客さんにはわからなかったりするんだけどねー、その数秒が延々と続くかのようにこっちには感じるのよね~。
昔トランペットの友達が即興が上手いといわれてるオルガニストとクリスマスのミサを弾いた時に、「はじめボクが即興して、それから適当に次の曲に繋げるから用意して待ってて」と言われて、友達はいつでもスタンバイ状態でずーーーーっと息を吸い込んで待ってたのに、結局オルガニストはトランペットとの曲のイントロにたどり着けずにミサは終わり、ずーっと息を吸いっぱなしで死にそうだったって話を聞いたことがあるわ。即興苦手な私には羨ましい話だけど、でも笑える・・・
Commented by organvita at 2010-12-01 17:25
さーぶへ。
慰めてくれてありがとう・・・(^^)。いやそれにしても、ピアニストっていつも暗譜じゃない?それこそすごい神業だなーと思ってしまいます。ハプニングがあったとしてもどうにかどこかへ戻りつつ立て直すんだもんね。すごいわ。オルガン弾き始めてからめっぽう「暗譜」という作業をしなくなってしまったので(暗譜で弾く人もいるけどね)、突然こうやって振られると、いかに頭に入ってなかったかがわかってしまって怖い・・・。ほんと、イタリアは鍛えられるわー・・・爆。だからイタリア人って即興や本番にも強いのかも。
Commented by organvita at 2010-12-01 17:28
njsさんへ。
ありがとうございます、同感していただいて・・・爆。
とにかく、こういうとき、その数秒が数時間にも数年にも感じられるから恐ろしいですよね。楽しいことをしているとあっという間に時間は経つのに。まあ、こういうことがあるから生演奏って楽しい、ってこともあるんですけど、でも限度もあります・・・・わはは。
Commented by organvita at 2010-12-01 17:32
mamadanceさんへ。
肩、送ります~!もんでください~!!笑
そうですね~、コンサートは弾く側と聴く側が一緒になれるので、それが弾くこちらとしても醍醐味なんですが、いやいや、焦りました。たぶん笑顔が消えてたと思います(爆)。それにそなえて、これからイントロだけしっかり練習しとこうと思います(笑)。
Commented by organvita at 2010-12-01 17:38
batanosuke-さんへ。
いやいや、イタリアって面白いです・・・汗。修行の道は長いです(笑)。
こう、イタリアでの辛いことをブログでみなさんに笑い飛ばしていただけると、それでかなりすっきりするというか、快感さえ覚える今日この頃です(笑)。
フィートっていうのはパイプの長さの単位なんですが、そう、あの横についてる棒を移動させて音を鳴らすパイプを選ぶんです。数字が小さいほどパイプが短いので高い音が鳴る仕組みです。それを重ね合わせて弾いたりするんですよ。いつか近くで見ていただきたいです(^^)。
Commented by organvita at 2010-12-01 17:40
hirokoさんへ。
笑っていただいて嬉しいです~がはは。
いつか企画してください、「誰が一番原曲から遠くまでトリオソナタを持っていけるか即興コンクール」。たぶん世界中のオルガニストが挑戦にくるかと思います?!
コミュニティーカレッジか。さすが、なんか上品な言い方ですね。
Commented by organvita at 2010-12-01 17:44
emiliaさんへ。
北イタリア一帯、大雪みたいですね。今も深々と降ってますよ!
emiliaさんのブログのトレント・クリスマス市見てましたよ~!私はまだ今年行ってないんです!ブログでしっかり見せていただきました~!
ボルツァーノやメラノのクリスマス市も可愛いですよ。またぜひぜひ!
Commented by organvita at 2010-12-01 17:47
yuukさんへ。
「即興」と書くとカッコイイんですけどね、そんなカッコイイもんにはならなかったです(笑&汗)。書道ね!いいですねー!やっぱり聞かれること多いんですね。日本の歌って何歌います?私かえるの歌とかしか出てこなくて、つくづくレパートリー(っていうのか?)の狭さを感じますわ。わはは。
Commented by hiroko at 2010-12-01 23:42 x
ああ誰か助けて、また笑い直している私。
「誰が一番原曲から遠くまでトリオソナタを持っていけるか即興コンクール」なんてややこしいことじゃなく、
いきなりフーガの技法弾いてねとかなんか言って反応を見るコンサート
というのがいいかもしれないな・・・。
・・・かえるの歌って、日本の歌なの?
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